届出伝染病

チョーク(ハチノスカビ)病

チョーク(ハチノスカビ)病は、真菌(カビ)の1種であるAscophaera apis によって起きる病気です。

真菌の胞子が孵化後3から4齢の蜂児の体内に入って感染、サナギの時期になるとチョークのように白い菌糸を伸ばして、白く固まったミイラ状態で蜂児が死亡することからチョーク病と呼ばれています。日本での発生は比較的多く、1999年に届出家畜伝染病に指定されています。

感染症状

胞子が幼虫に感染すると、サナギの時期に白色または黒緑色の菌糸でおおわれミイラ化して死亡します(写真)。チョークのような色と硬さになるので、チョーク病であることが比較的缶単にわかります。

巣門の前や巣箱の底にミイラ化した個体が見えた時は、すでに蜂児巣板全体に蔓延している状態です。

チョーク病により死亡した蜂児。写真提供: アメリカ農務省

チョーク病により死亡した蜂児。写真提供: アメリカ農務省

巣箱底部に堆積したチョーク病の死亡蜂児。

巣箱底部に堆積したチョーク病の死亡蜂児。

感染対策

現在、日本で使用できる薬剤はありません。

梅雨時期の湿度が高い時に、貯蜜量が少なく、栄養状態が良くない時期の群で発症しやすい病気のため、過度に採蜜を行って蜂群に負担をかけないようにすることが大切です。

30度以下で長時間蜂児をさらすと、発症率が高まります。春や秋に気温の低い日が続いたりすると発症しやすくなるため、巣箱の保温や湿度管理が重要になります。

発症は一過性の場合が多く、蜂群が全滅することはまずありません。ただし、養蜂場の環境や蜂群の取り扱いなど、飼育上の技術的要因で発症を抑えられないことがあります。特に、蜂群管理に不慣れなうちはよく発症し、長期化( 数か月~半年以上)することもあります。

一度発症すると本種は、胞子のうを形成し、胞子のうの中には胞子球が作られ、そして胞子球の中には多数の子のう胞子が作られるため、熱や薬剤などに耐性が生まれます。胞子を完全に駆除することは難しく、毎年慣習的に発症(一過性)する場合があります。

基本的には、気温が暖かくなると自然治癒する病気ですが、感染がひどい場合は、女王蜂を一次的に王籠に入れて隔離し、巣内に蜂児がいない状態にすることで発症を抑えることが出来ます。また、日陰や水はけの悪い土地で発症しやすいので、予防対策として養蜂場の環境改善を行うこともおすすめです。

ノゼマ(Nosema apis、Nosema ceranae)病

ノゼマ病は、原生動物の微胞子虫(原虫) の一種であるノゼマ原虫が、成虫の消化管に内部寄生して、胞子が発芽・増殖することで発症します。

ノゼマ原虫はいろいろな昆虫に寄生しますが、セイヨウミツバチに寄生するのは、N.apis とN. ceranae の2種類です。寄生を受けた働き蜂は、寿命が短くなると言われています。寄生個体が蔓延すると蜂群が崩壊することがあり、女王蜂はノゼマ原虫に寄生されると死亡します。

ノゼマ病は、1999年に届出家畜伝染病指定に指定されていますが、日本での被害例はまだ少ないと言われています(ヨーロッパやアメリカでは大きな被害が報告されています) 。

寄生症状

ノゼマ原虫を含む微胞子虫は、昆虫の腸管内に寄生して内部で胞子が増えることで、病気が発症します。

寄生を受けた働き蜂には下痢のような症状が現れます。日本では、冬の終わりに近づくと、巣箱の内外が糞で過剰に汚れたり、巣箱の周辺を徘徊したり、巣門付近で死亡している働き蜂がいた場合、寄生を受けている可能性があります。

働き蜂の腹部末端の針の部分をピンセットでつまみ、引き出すと腸も一緒に出てくるので、腸の色( 赤茶色で透明感がない)で寄生を受けているかどうか判定出来ます。

感染対策

ノゼマ病に感染した群は、巣箱が糞で汚れることが多いとされます。写真提供: アメリカ農務省

ノゼマ病に感染した群は、巣箱が糞で汚れることが多いとされます。写真提供: アメリカ農務省

現在、日本で使用できる薬剤はありません。

ノゼマ原虫の胞子は、排泄物の中に存在します。乾燥した糞の中で長期間に渡り生存出来るため、寄生が毎年慣習的に繰り返されます。寄生を受けたら、蜂群の巣箱の汚染除去または全交換を行ってください。

バロア(Varroa destructor、Varroa mite、ミツバチヘギイタダニ)病

バロア病は、V.destructor 、V.jacobsoniおよびミツバチヘギイタダニに分類されます。

V.destructor 、V.jacobsoni について

以前はVarroa jacobsoni という学名でしたが、2000年に形態やDNA解析から少なくとも2種類存在することがわかりました。

トウヨウミツバチ(ニホンミツバチを含む) を本来の宿主とし、世界各地でセイヨウミツバチに重篤な被害をもたらしているタイプが新種(V.destructor) 、同じトウヨウミツバチを宿主とし、セイヨウミツバチに被害を与えないタイプがV. jacobsoni ※とされました( 和名はミツバチヘギイタダニのまま) 。

届出伝染病として1999年に、本種の寄生による病害、バロア病が指定されています。

※2001年以前の文献ではV.destructor もV.jacobsoni と呼ばれています。

ミツバチヘギイタダニについて

ミツバチヘギイタダニのメスの成虫。

ミツバチヘギイタダニのメスの成虫。

ミツバチヘギイタダニは赤色で卵型をした1~2mm程度のダニで、日本、韓国、中国、フィリピン、ネパール、スリランカ、タイ、ベトナムに自然分布しています。セイヨウミツバチには、いずれかの地域に導入された群に水平伝播し、1970年代には東ヨーロッパ、ロシア、南米で本種に寄生された群が見つかっています。その後、アメリカ、カナダ、西ヨーロッパにも分布を広げ、2000年以降にはニュージーランド、ハワイ、オーストラリアでも見つかっています。

生態

ミツバチヘギイタダニの生活史は、ミツバチの外部寄生者としてミツバチ巣内で完結しています。

働き蜂蜂児に寄生して成虫になったミツバチヘギイタダニのメス。

働き蜂蜂児に寄生して成虫になったミツバチヘギイタダニのメス。

メス(母)ダニは、最初ミツバチ成虫に取りついていますが、若齢の幼虫巣房を見つけるとただちに侵入し、産卵を開始します。最初にオス卵を産み、続いてメス卵を1~5個程度産むとされています。

オスの蜂児に寄生した場合、生育期間が働き蜂よりも長いので子ダニの生産数は多くなります。孵化した子ダニ( 若虫)は、次々に蜂児の体液を吸って成長し、やがて巣房内で成熟したオスダニとメスダニの間で近親交配( 兄妹婚) が行われます。交尾を終えたオスダニは死亡し、メスダニだけが生き残ります。この時期には蜂児もサナギになっていて、メスダニは羽化する蜂に付着して一緒に巣房から出ていきます。しばらくは成虫の腹部や胸部に寄生して体液を吸っていますが、産卵出来るようになると、メスダニは蜂児巣房を匂いで見つけて成虫から脱落して侵入します。

働き蜂の成虫胸部に寄生しているミツバチヘギイタダニのメス( 写真中央の蜂の赤い点)。

働き蜂の成虫胸部に寄生しているミツバチヘギイタダニのメス( 写真中央の蜂の赤い点)。

一般的にオス蜂児に対して選好性の高い傾向がありますが、働き蜂に高い選好性を持つ系統もいて、繁殖生態については知られていない部分も多いとされています。メスダニの寿命は、1 ~2 か月程度であると考えられており、その間に何度か繁殖しているようです。ダニは蜂児が大量に生産される時期に合わせて大量発生しますが、冬場も繁殖しています。越冬前に殺ダニ剤を使用しないと、群によっては50%を越える寄生率となって春を迎える場合があります。

寄生による影響

ミツバチヘギイタダニに寄生された蜂児は、成虫の矮小化が起きたり、発育途中で蜂児が死亡することもあります。春先から蜂児数の増加とともに徐々に寄生率が高くなり、そのまま放置しておくと夏頃には弱小群になってしまうため、ミツバチヘギイタダニの駆除対策は必ず行いましょう。

他にもチヂレバネウイルス(DWV、deformed wing virus)など少なくとも5種類のミツバチ病原性微生物を保有し、その媒介者となっていることが示されています。

本種の寄生が確認された群では、いち早く、殺ダニ剤で駆除してください。

ミツバチヘギイタダニの寄生によりハネが縮れ、小形となった働き蜂。本種が媒介するDWV感染によるものか、または吸血による栄養不足によるものだと考えられています。

ミツバチヘギイタダニの寄生によりハネが縮れ、小形となった働き蜂。本種が媒介するDWV感染によるものか、または吸血による栄養不足によるものだと考えられています。

ミツバチヘギイタダニの重寄生により死亡した蜂児。

ミツバチヘギイタダニの重寄生により死亡した蜂児。

寄生の確認方法

一般的な確認方法

確実に行うのであれば、蓋掛された巣房の中を顕微鏡で観察します。

目視による簡単な確認方法

巣板にいる働き蜂を目視で観察すると、寄生率が高い場合には、巣板1枚あたり30匹以上の働き蜂(背中や腹部)に赤色をしたミツバチヘギイタダニを見ることが出来ます。このような時には、すでに巣房あたりの寄生率が10%を越えているため、素早く駆除してください。またハネの縮れた個体がいれば、ミツバチヘギイタダニによるDWV感染が拡大することがあるので、その蜂も含めて駆除してください。

不安な時、丁寧に調べたい時の確認方法

目視で寄生が確認出来ない時や寄生の有無や寄生率を調べたい時には、群の寄生状況を把握しておきましょう。殺ダニ剤の乱用を抑えられ、薬剤抵抗性系統の出現回避にもつながります。

準備するもの
  1. 100mLが量れる軽量カップ
  2. 300mL位の広口瓶
  3. 白色のバット
  4. 粉砂糖か70~99%エタノール( 薬局で購入可能)
確認の手順
  1. 巣板にいる働き蜂を軽量カップに100mLの目盛まですくいます( 約300匹)。
  2. 働き蜂を静かに瓶に移して、粉砂糖を振り掛けて蓋をします。
    エタノールを使う場合( 蜂が死亡しますので注意してください)は、瓶の8分目位まで注ぎ込み、蓋をして1分間激しく混ぜます。
  3. 働き蜂に寄生していたミツバチヘギイタダニが底に落ちてくるので、バットに蜂ごと移します。
  4. 底に落ちたミツバチヘギイタダニから寄生の有無や寄生率を推定することが出来ます。
見つかったミツバチヘギイタダニの数と寄生率との関係

見つかったミツバチヘギイタダニの数と寄生率との関係

伝播経路

ミツバチヘギイタダニは、通常ミツバチ巣内で生活史を完結しているので他の巣に伝播することはありません。しかし、合同を行ったり巣箱間で巣板の移動を行うと、当然、養蜂場内に広がります。

最近の研究では、本種に寄生された働き蜂は、記憶能力が低下して他巣へ迷い込みやすくなり感染拡大を招くと考えられています。オス蜂は、結婚飛行から戻った時によく別の巣に迷い込むことがあるので、この時に巣から巣へとダニを伝播している可能性があります。さらに盗蜂時にも巣から巣へと寄生が広がります。非常にまれに、花の上で見かけることがありますが、それは働き蜂に寄生していたものが脱落した個体と思われます。

寄生された場合の対処方法

殺ダニ剤の使用

日本でのミツバチヘギイタダニ剤は、動物用医薬品として「アピスタン」と「アピバール」が認可されており、(社)日本養蜂はちみつ協会を通じて購入出来ます。決して市販の農薬や未承認薬剤を使用しないでください。

使用方法

最初は「アピスタン」を使用し、その効果が弱くなってきたら、次の季節は「アピバール」に切り替えます。両方の薬剤を同時に使用したり、使用量や使用期限を守らずに使っていると薬剤抵抗性のダニが出現するきっかけとなるので注意してください。

使用方法はアピスタン、アピバールに添付された説明書を参照してください。使用には使用時期、使用期限(6週間)、使用量(巣板4枚あたり1枚)を必ず守り、帳簿を付けてください。

使用効果を上げるのなら、巣板の数を減らして蜂の密度を上げましょう。これらの殺ダニ剤は接触剤タイプなので、蜂がシートに接触したり、その蜂と接触することで効果が期待出来ます。

またこれらの殺ダニ剤使用時に貯蜜された蜂蜜には薬剤が浸透しているため、採蜜1か月以内では決して使用しないでください。ローヤルゼリー、プロポリス、蜂児などの食用になるものすべて共通です。

寄生状況を把握しながら、春季(2~3月)と秋季(10~11月) に1回ず つ薬剤処理を行います。

現在のところ使用方法を守っている限り、薬剤が効かないミツバチヘギイタダニは確認出来ていません。

もし上記の使用方法を守っているにもかかわらず、薬剤が効かない群があれば京都産業大学総合生命科学部養蜂学研究室または( 独) 畜産草地研究所みつばち研究ユニットまでご連絡ください( 連絡先は59ページに記載)。

粉砂糖(シュガー・パウダー)による防除

一般的な砂糖より粒子の細かい粉砂糖を、成虫の働き蜂に振り掛けてダニを落とす方法を用います。アメリカやヨーロッパなど、海外では日本よりもミツバチヘギイタダニの薬剤抵抗性が発達しているため、薬剤の効果が弱いこともあって、よく利用されています。

やり方は2種類あります。①巣板の上部に細かい網を置いてその上から粉砂糖を濾し落とす方法、②農薬用の噴粉器や調理用の粉ふるいを使って巣板にいる蜂に直接振り掛ける方法です。この際、巣箱の底には粘着性の紙を敷いて、その上に目の細かい網を張り、そこに落ちてきたミツバチヘギイタダニと余分な粉砂糖を回収出来るようにしておくと巣箱を汚さずに便利です。

粉砂糖には、ベーキング・パウダーが混ざっているものがあります。ご注意ください。出来るだけ細かな粉砂糖を選んでください( 一般的な粒子の粗い砂糖は使用しないでください)。粉砂糖が蜂蜜中に移行することがあるので、糖液を給餌するのと同じように蜂蜜生産群では使用時期に注意しましょう。

粉砂糖を巣板にいる蜂に直接ふりかけているところ。

粉砂糖を巣板にいる蜂に直接ふりかけているところ。

粉砂糖をかけられた働き蜂。翌日には元に戻っています。

粉砂糖をかけられた働き蜂。翌日には元に戻っています。

調理用の粉ふるい。

調理用の粉ふるい。

アカリンダニ(Acarapis woodi)症

アカリンダニはホコリダニ科の一種で、アカリンダニ症は本種が働き蜂の気管内に寄生・増殖することにより発症します。ミツバチヘギイタダニと同じように吸血する際にウイルスを媒介する可能性があると言われています。

日本では1999年には届出家畜伝染病指定に指定されていましたが、2010年になってはじめて寄生が確認されました。

寄生症状

アカリンダニはミツバチの気管内で生活して繁殖します。肉眼での観察は不可能なので、顕微鏡下で解剖して確認します。

メスダニは気管壁に5~7個の卵を産み、孵化した幼虫は11~15日位で成虫になり、気管から脱出して若いミツバチ成虫に寄生します。気管に侵入すると口吻を気管壁に刺し、体液を吸います。十数匹程度の寄生であれば特に影響は見られないと言われています。
原因は不明ですが、日本では秋から冬にかけて気管内で本種が100匹以上に増殖することがあります。そうなると働き蜂は飛ぶことが出来なくなり、時に数10匹の働き蜂が巣門から這い出てきて周辺を歩きまわりながらやがて死亡します。

気管内で増殖するアカリンダニ。写真提供:アメリカ農務省

気管内で増殖するアカリンダニ。写真提供:アメリカ農務省

防除対策

現在、日本で使用できる薬剤はありません。

海外では「チモール」などが使用されているようですが、「アピスタン」や「アピバール」でも一定の効果が見られたという報告例があります。

本種の感染経路は不明ですが、ミツバチヘギイタダニと同じように他巣への迷い込みや盗蜂などにより巣から巣へ広がっていくと思われます。