要注意病害虫類

 これまで、セイヨウミツバチでさまざまな病害虫が報告されています。中には養蜂産業にとって重大な影響を及ぼすものも少なくありません。今後日本に侵入する可能性のある病害虫を覚えておきましょう。

Small Hive Beetle(Aethina tumida; ハチノスムクゲケシキスイ)

ハチノスムクゲケシキスイ 成虫 写真提供:アメリカ農務省

ハチノスムクゲケシキスイ 成虫 写真提供:アメリカ農務省

 ハチノスムクゲケシキスイは、アフリカ原産の甲虫でケシキスイ科に属しています。日本には近縁種が貯穀害虫として見られますが、ミツバチの巣に寄生する種類は確認されていません。本種が自然分布する地域にはアフリカミツバチが生息していますが、被害はほとんどないようです。

 しかし、欧州原産のセイヨウミツバチの巣に侵入すると、蜂児、蜂蜜、花粉を捕食します。さらに、幼虫は巣板に侵入孔を開けながら食害するため貯蜜が流蜜したり、蜜が糞により汚染されると、変色・腐敗を起こし特有の臭気が発生します。寄生がひどくなると女王蜂の産卵停止や蜂群の逃去が起きるため、侵入を放置しておくと群が壊滅的な被害を受けてしまいます。

ハチノスムクゲケシキスイ 幼虫 ハチノスツヅリガの幼虫に似ていますが、本種では脚がはっきりと確認出来ます。

ハチノスムクゲケシキスイ 幼虫 ハチノスツヅリガの幼虫に似ていますが、本種では脚がはっきりと確認出来ます。

 1996年、アメリカで初めて発見され、その後、2002年にオーストラリア、カナダ、2005年にジャマイカ、2007年にメキシコ、そして、2010年にハワイ島での帰化が確認されています。また、エジプトでは2000年に(経路不明) 、ポルトガルでは2004年にアメリカから輸入した蜂(package bees) で見つかっていますが、その後の状況は不明です。

 侵入経路は女王蜂や群の輸入だけでなく、養蜂資材や蜂ロウの輸入品などからも見つかっています。アメリカでは侵入確認から2年後には2万群で寄生が確認され、数100万ドルの被害を受けています。

巣板にいるハチノスムクゲケシキスイの成虫。写真提供:アメリカ農務省

巣板にいるハチノスムクゲケシキスイの成虫。写真提供:アメリカ農務省

 これまでの事例から、国内に本種の侵入を許した場合、養蜂場から養蜂場に土壌( 蛹化場所) や養蜂器具を運搬する際などに広がることでしょう。ハチノスムクゲケシキスイは、果実やマルハナバチの巣なども食べ、多産、飢餓耐性、分散能力などが非常に高いため、一度侵入してしまうと完全な駆除が困難であると思われます。

 アジア・欧州地域では、まだ本種の侵入は確認されていませんが、国に関係なく養蜂関係の輸入品全般に注意し、水際で防除する必要があります。

ミツバチトゲダニ(Tropilaelaps clareae)

ミツバチトゲダニ 写真提供:アメリカ農務省

ミツバチトゲダニ 写真提供:アメリカ農務省

 東南アジアが原産のミツバチトゲダニ。成虫の外形は、赤く、ミツバチヘギイタダニと似ていますが、本種は長方形なので容易にミツバチヘギイタダニとの違いがわかります。

 オオミツバチで初めて寄生が確認されましたが、もともと同所的に分布する他の在来ミツバチ種にも寄生していたようです。セイヨウミツバチが東アジア地域にも輸入されるようになり、在来ミツバチから広まったと思われます。現在は、ほぼアジア地域全域( アフガニスタンから韓国まで) のセイヨウミツバチの養蜂場で寄生が確認されていますが、幸いなことに日本ではこれまで一度も本種の寄生はニホンミツバチも含めて確認されていません。

 本種はミツバチヘギイタダニと同じように、蜂児に外部寄生して体液を吸います。東アジアの研究によると、群あたりの寄生率はミツバチヘギイタダニと比べると低く、寄生率は高くても8%以下とされています。ただし、寄生を受けるとミツバチヘギイタダニと同じように蜂数の減少だけでなく、重篤な病気を引き起こす病原性微生物の媒介を行っている可能性が高いと言えます。韓国での被害状況から、本種が日本に侵入すると大きな被害を受けることが予測されますので、ミツバチトゲダニに寄生された場合には、早期に駆除してください。

アルゼンチンアリ(Argentine ant、Linepithema humile)

 アルゼンチンアリは、南米原産のアリで19世紀初頭から木材などに紛れ込み世界各地に分布域を広げています。現在までのところ、アメリカ、メキシコ、キューバ、ヨーロッパ、バミューダ諸島、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、日本で確認されています。日本では、1993年に広島県廿日市市で初めて確認されて以降、山口県、神奈川県、兵庫県、愛知県、大阪府、京都府、岐阜県と徐々に分布域を広げています。

 侵入地では複数の女王蟻が共同で営巣をする多女王制へと生態を変化させ、100万匹以上の働き蟻からなる巨大集団を作ります。本種は広食性で、活動温度の範囲が広く、また人間の家屋や他生物の巣に侵入して乗っ取るため、本種の見られるところでは在来のアリ相は完全に駆逐されてしまいます。そのためIUCN( 国際自然保護連盟) により世界の侵略的外来種ワースト100に、日本では特定外来種に指定されています。

 最近になって、カリフォルニア州に生息するアルゼンチンアリが、ミツバチの巣箱内にも侵入し、蜂児、蜂蜜、花粉などを集団で捕食してしまうことが報告されました。本種の働き蟻が巣箱に侵入すると1~2日程度で占領し、その結果ミツバチは盗去してしまうようです。日本やその他の地域では本種による被害は確認されていませんが、今後注意する必要があります。

女王アリ

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働きアリ

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